2002年FIFAワールドカップ開催記念 サッカー映画特集・第2弾
『ザ・カップ 夢のアンテナ』

映画紹介

 ザ・カップ 夢のアンテナ 作品情報

1999年 ブータン/オーストラリア合作
監督・脚本:ケンツェ・ノルブ

出演:ゲコ先生…ウゲン・トップゲン
   ウゲン(サッカー好きの少年僧)…ジャムヤン・ロゥドゥ
   ロドゥ(ウゲンの悪友)…ネテン・チョックリン
   僧院長…ラマ・チュンジョル
   パルデン(チベットから亡命してきた新入り)…クンザン・ニマ
   ニマ(パルデンの甥)…ペマ・ツンドゥプ
2000年9月 アジアフォーカス福岡映画祭2000にて上映
2001年1月27日公開
2001年9月 ビデオ&DVDリリース

夢のアンテナ
※2002年4月29日(月)13:00〜14:40,5月26日(日)18:15〜19:55 BSフジにてオンエア
  STORY
夢のアンテナ

 1998年、インドにある亡命チベット僧たちが暮らす僧院で、若い修行僧たちの関心は、もっぱらサッカーのワールドカップ。試合の結果が気になって修行に身が入らない彼らを、高僧のゲコ先生は厳しく監督しているが、どうも先生も隠れサッカーファンらしい。世俗を超越した僧院長様は、いまひとつ、サッカーの意味が理解できないようすだった。

 ある日、僧院に2人の新入りが、チベットから亡命してきた。まだ幼い少年ニマの母は、彼女の弟パルデンと息子のニマが安全な地で立派な僧になるようにと、貧しい中から金の時計をニマに持たせ、2人を送り出したのだった。

 いたずら坊主の少年僧ウゲンとその年上の悪友ロドゥは、夜毎、僧院を抜け出しては近くの民家にテレビを見に行っている。さっそく新入りのパルデンも仲間に引き込んで出かけるが、ゲコ先生にバレ、罰として炊事当番にされてしまった。

 ワールドカップの決勝の日、我慢ができなくなったウゲンは、ゲコ先生に決勝さえ見たらその後は修行に励むと約束し、テレビと衛星放送のアンテナをレンタルして、僧院でテレビを見せてくれるよう頼み込む。

 お許しをもらったウゲンたちはみんなの小遣いを集め、インド人の経営するレンタル屋に行くが、決勝はレンタル料金が割高になり、お金が足りない。ウゲンはパルデンをそそのかし、ニマが持っている母の時計を出させて、ようやく借りることができた。

 大騒ぎの末にアンテナ設置に成功し、決勝戦が始まった。僧院長様もゲコ先生もテレビの前にやってくる。だが、隅の方では、母の時計を失ったニマが沈み込んでいて、ウゲンは気になって仕方がない。

 そして、僧院長様とゲコ先生は、テレビの前からウゲンの姿が消えたことに気づいた…。

 本作の監督ケンツェ・ノルブは、19世紀の聖人の生まれ変わりと名高い高僧で、他の出演者たちも実際の修行僧たちである。スタッフ、キャストのプロフィールに前世の聖人の名が登場し、撮影に使うフィルムも占いで決めたというほどの世俗とかけ離れた世界ながら、この作品には、他の国の若者たちと少しも違わない人々の姿が、いきいきとユーモアたっぷりに描かれている。

 小坊主クンたちは、修行中に手紙や紙飛行機を飛ばし、祈とうに使う旗をブラジル旗に描き換え、寺院の壁に落書きをしては叱られる。そして先生たちは、サッカーの試合を見たいという煩悩でいっぱいの彼らを、厳しくもあたたかい目で見守っている。

 この物語はほとんど実話に基づいており、描かれている人々の背後にある現実は重い。中国の統治下にあるチベット自治区では文化的宗教的な弾圧が続き、それを逃れてきた彼らが故郷へ帰ることは難しい。悟りを開いたはずの僧院長でさえ帰国を夢みて荷造りを繰り返しているが、幼いニマが再び母親に会える日は多分来ない。

 だが、この映画を見た人は、今年のワールドカップに歓声をあげるとき、きっと心のどこかで、ヒマラヤの奥で修行に励む彼らのことを思い出すだろう。もしかしたら4年前の約束を忘れて、今度もまた僧院の柵をくぐっているかもしれない小坊主くんたちのことを。それこそが、スポーツの持つ魔法なのかもしれない。

夢のアンテナ